第8章 抗えない夜
甚「こっちだ。知ってる店がある。裏通りだけど、味は保証する。」
導かれるように、彼女はその背に続いた。
夜風の匂いが変わる。
ネオンがまばたき、通りを抜けるたび空気が濃くなる。
──不思議だった。
高専では、どれだけ人に囲まれても、どこかで孤独だった。
悟に抱きしめられても、傑に優しい声をかけられても埋まらないものがあったのに。
なのに今、伏黒甚爾の背を追って歩くこの瞬間だけは──
なぜか、ほんの少しだけ息がしやすい。
「……甚爾ってさ、昔からこうなの?」
甚「ん? どーゆー意味?」
「人を見て、すぐ見抜いて、そして……逃げ道を作ってくれるところ。そういうの……誰にでもできるわけじゃないよ。」
甚「さあな。女に褒められるほど立派な人生、送ってねぇよ俺は。でも……。」
路地裏の細道、彼女の隣を歩きながら甚爾はぽつりと呟いた。
甚「壊れそうな奴は、見りゃわかる。昔の自分が、そうだったからな。」
「……。」
彼女はその言葉に、胸の奥を撫でられるような感覚を覚えた。
──この人は、どこまで私の中を見抜いているんだろう。
次の角を曲がったところで、ふと甚爾が立ち止まった。