第7章 挑発
傑「ほんの少し、寂しくなっただけさ。私の知ってる五条悟は、こんな顔──誰にでも見せるわけじゃないからね。」
その言葉に、悟の眉がわずかに動いた。
悟「……オマエには、見せてたじゃん。」
傑「そうだったかもね。でも、今の君は──彼女にしか向いていない。」
夏油の声はあくまで穏やかだった。
けれど、彼女の中に小さな棘のように残った。
──傑が、悟に嫉妬している。
──そして、それと同時に彼女自身にも少しだけ……
視線が痛かった。
「……ごめん。私……迷惑かけた、よね。」
傑「いや、良いんだ。君は悪くない。悪いのは、君をこんなに脆くした"誰か"だよ。」
夏油はそう言って、ふっと視線を逸らした。
それが誰を指すのか、言わなくてもわかった。
悟の腕が、再び彼女の身体をきゅっと抱き寄せる。
悟「彼女は僕が守る。……そういう話、今さらオマエに確認しなくても、良いよな?」
傑「もちろん。」
夏油はふっと笑う。
傑「……ただ、私にもまだ"彼女にしてあげられること"があるなら、私も黙っていないよ。悟。──私は、あきらめない。」
それは優しい声でありながら、確かな宣言だった。
悟の目が鋭くなる。
対峙するように、2人の視線が交差した。
その狭間に、彼女はひとり座っていた。
宿儺に侵され悟に抱かれ今、夏油の静かな執着にまで触れようとしていた。
──私は、一体どこへ向かっているんだろう。
胸の奥に小さな問いを宿したまま彼女はただ息を殺して、その2人を見つめていた。