第7章 挑発
振り返ると、そこには──
釘崎野薔薇が立っていた。
片手にソーダの缶を持ち、もう片手には何故かアイスバー。
野「アンタが来ないから探したのよ。てか、なんでその顔? どっかで転んだ?」
「……野薔薇……。」
野「はあ!? 泣いてんの!? 何やったのよ!? アイツら!? まさか虎杖が泣かしたんじゃ──。」
「……ちが、う……私が……。」
ぽつり、と漏れた声はあまりに弱くて普段なら絶対に言わないようなトーンだった。
それに、野薔薇の顔が変わった。
驚きと怒りが入り混じり、次の瞬間には彼女の隣にどかっと腰を下ろしていた。
野「……聞かないよ。アンタが言いたくないなら、それで良い。でもさ──落ち込んでるなら黙って支えるくらい、私にだってできるんだから。」
彼女は目を見開いた。
野薔薇は缶をぽいっと投げて、アイスバーを無理やり彼女の手に握らせる。
野「ほら、冷たいもんでも食え。アンタ、そういうとき、何も食べないで余計落ち込むタイプでしょ。」
「……なんで、わかるの。」
野「は?どんだけ一緒にいると思ってんのよ。バカ。顔に出すぎ。」
彼女の頬が微かに震え、唇がゆるんだ。
野薔薇は何も詮索せず、ただ隣にいて静かに言った。
野「……アンタが誰に何されたって、私の友達ってことに変わりはないんだから。」
「──っ……。」
野「泣くなら隣で泣け。喋りたくなったら聞いてやるし、喋りたくなきゃ黙ってアイス食ってろ。男? 知らねーよ。アンタが笑ってる方がずっとマシ。」
彼女は、握っていたアイスバーをぽつりと口に入れる。
ひんやりとした甘さが、ずっと張り詰めていた喉にすっと染みた。
「……野薔薇、ありがとう。」
野「別に。女友達は、そういうもんでしょ?」
夕焼けの光の中、野薔薇の声は澄んでいた。
まっすぐで強くて、優しい──
そして、心をまるごと抱きしめてくれるような。
彼女はそっと涙をぬぐい、アイスをひとくちかじった。
冷たさの奥に、少しだけ、甘さが残った。