第7章 挑発
それに気づいたのか、顔を赤くして後ずさりそうになるが──
悟「悠仁。着替えな。」
低く、静かな声だった。
だが、それは明らかに悟の"本気"を帯びた声音だった。
悠「さっきのは、宿儺が──俺は……っ、わかってなくて……!」
悟「わかってる。でも、今は……。」
悟は悠仁の方を見ないまま、彼女に視線を向けた。
その視線には、明らかに"抑え込まれた感情"が滲んでいた。
怒りではなく、傷ついた男の嫉妬。
そして──
奪われたことへの苛立ち。
悟「怪我、してない?」
「……してない、けど……。」
言葉が詰まった彼女の喉に、さっと指先が触れる。
優しくもあるその仕草の奥に悟の手のひらが小さく震えているのを、彼女は気づいてしまう。
悟「よかった。……無事でさえいれば、良い。」
悟は微笑んだ。
けれどその微笑にはいつもの余裕など、どこにもなかった。
悟「でもね……宿儺に抱かれてる姿、俺の目に焼きついたよ。──どう、責任とってくれる?」
それは冗談のようでいて、ひどく本気の声音だった。
言葉は静かだった。
だがその響きの底には熱が、あった。
嫉妬という名の怒りが沸々と音を立てて、彼の奥底で煮えたぎる。
声が出ない。
まだ宿儺の体温が身体に残り、震えが止まらない。
悟「──別に。僕は、怒ってなんかいないよ。ただ……。」
悟は1歩、室内へ踏み込んだ。
背筋を伸ばし、悠然と。
それでいて、部屋の空気が一瞬で張り詰めた。
悟「"自分のもの"を勝手に舐め回されたみたいで、ちょっとだけ……不愉快だ。」