第6章 静寂を裂く朝
不意に訪れた脱力感に、女のまぶたが重くなる。
目を閉じたのはほんの数秒だった。
けれど次に聞こえてきた声には、明らかに“それ”ではない響きがあった。
宿「フン……油断するな、女。」
その声には、柔らかさも優しさもなかった。
ぞわりと背筋に走る違和感に目を開けた瞬間、女は全身に冷たい汗をかいた。
――宿儺。
同じ顔なのに、そこにいる“彼”はまるで別人だった。
目の奥に漂う獰猛な光と、唇の端に浮かぶ嘲笑。
それだけで十分だった。
「……宿儺……っ、どうして……。」
宿「フン、どうして、だと?」
宿儺は低く笑った。
獣が玩具を見つけたような、底知れぬ嗜虐の笑み。
その視線は女の身体を1度ゆっくりとなぞるように這い、楽しげに細められる。
宿「アイツがな、嫉妬している。ふん、見ていて飽きん。オマエのことで頭を抱えている、可哀想な小僧だ……。」
「……やめて、悠仁に戻って……。」
宿「それは、オマエの態度次第だ。」
ぴたり、と顔を近づけてくる。
その距離は、まるで息が掛かるほど。
宿儺の指が顎に触れ、強引に上を向かせた。
宿「抗うなよ。オマエの中のどす黒い欲望……俺はそれが見たい。怖がりながらも身体を開き、罪悪感に震えながらも俺に堕ちる姿をな。」
「……っ、最低……。」
宿「褒め言葉だ。」
宿儺はゆっくりと女の肩に手を置き、ぐいと押し倒す。
ベッドの上に沈み込む体。
逃げようとした腕を簡単に押さえられ、自由を奪われた。
宿「可愛い声で喚いてみろ。小僧がどれだけ動揺するか、俺は試してみたい。」
彼の舌が耳元をなぞり、ひやりとした感触が背筋を駆け上がる。
心臓が暴れ出し理性が必死にブレーキをかけようとするが、それ以上の刺激が全身を支配していく。
「やだ……やめてって……っ。」
宿「フン……その目、言葉と裏腹な期待が滲んでいるぞ。どうせ、“俺に支配されたい”のだろう?」
嘲るように囁かれ唇を首筋に押し当てられた瞬間、女は息を呑んだ。
強引なのに、どこか確実に急所を突いてくる。
心と身体の狭間に、宿儺の指が的確に入り込んでくるような感覚。