第6章 静寂を裂く朝
そう答えると、悠仁は少しだけ口元を歪めた。
その顔は、今までみみが知っていた彼の“明るさ”とは違っていた。
悠「……伏黒と、昨日……何があったの?」
その言葉に、心臓が跳ねる。
やっぱり。
そうなると思っていた。
悠「朝からずっと……おかしいんだよ、アイツ。顔も赤いし、視線合わせないし。……俺たち、どんだけ一緒にいると思ってんだよ。」
悠仁の声は、怒っていなかった。
ただ、ひたすらに真剣だった。
悠「俺、昨日、ちょっと遅れて寮に戻ったんだ。廊下で……伏黒の部屋の灯りがついてなくてさ。」
そして、言葉を詰まらせるようにして、彼は目を細めた。
悠「……アイツ、いたんだろ? 部屋に。」
沈黙が落ちた。
みみは答えなかった。
ただ、唇を噛んで、指先を強く握った。
悠「……やっぱりか。」
悠仁は小さく息を吐いた。
悠「ごめん。怒ってるわけじゃない。……ただ、俺……俺自身も、ちょっと、わかんないんだ。なんでこんなに、胸がざわざわするのか。」
彼の手が、机の縁を掴んだ。
悠「オマエが、伏黒のことを……その……“そういうふうに”見てたなんて、思ってなかったから。」
「……違うよ。そういうつもりじゃなかった……。」
悠「じゃあ、なんで――あんな顔してたんだよ。今朝の伏黒、完全に“何かがあった”って顔だった。」
彼の声がわずかに震える。
悠「……俺、オマエにそんな顔されたら……何か知らないまま、他人のままって、耐えられない。」
不器用な彼の言葉が、みみの胸に突き刺さる。
友情と恋心と知られたくない秘密の狭間で、みみは呼吸の仕方を忘れそうになる。
悠「ねぇ……教えてよ。伏黒と、何があったの?」
それは、逃げられない問いだった。
みみは静かに目を伏せた。
そして、小さく唇を開いた。
「……恵に、触れられた。……わたしも、それを……拒まなかった。」
言葉が、部屋の空気を変えた。
悠仁は何も言わなかった。
ただ拳をぎゅっと握り、少しだけうつむいた。
その目が見えないのが、怖かった。