第5章 微熱の帰路
彼の唇がみみの首筋に触れる。
恐る恐る、けれど熱を孕んだその動きに背中が小さく跳ねた。
彼は幼さの残る手つきでみみの頬を撫で、額をくっつけてくる。
恵「他の誰でもない、俺に……オマエを欲しがらせて。」
その囁きに、身体がじわりと熱を持つ。
恵の指先が、みみの胸元の布にそっと触れた。
その震えと緊張が余計にリアルで、理性を溶かす。
みみの中でくすぶっていた“誰にも触れられたくない”という感情と“誰かに肯定されたい”という弱さが、彼の言葉と体温に溶かされていく。
「……恵、そんな顔、初めて見た……。」
みみは思わずそう呟いた。
彼はわずかに目を伏せた後もう1度、真っすぐな目で見つめ返してくる。
恵「今まで、我慢してただけだ。」
その言葉が、まるで扉を開ける鍵のようだった。
みみは静かに目を閉じた。
どこかで、“誰かを選ばなきゃいけない”と思っていた。
けれど選ぶことよりも誰かの真剣な気持ちに向き合うことのほうが、もっとずっと怖いと気づいた。
そして今――
みみは恵の胸の中に、そっと身を預けることしかできなかった。
彼の指が、そっと胸元の布を撫でた。
その動きは拙く、ぎこちない。
けれど――
決して迷いではなかった。
震える呼吸の合間に、伏黒恵はみみを見つめ続けている。
押し倒したまま逃げ道を作るような隙間をつくることなく、みみの目を見ていた。
恵「……やめたほうが良い?」
問いかけの声は震えていた。
けれど、それは怯えではなく、みみの気持ちを真剣に探る声。
みみは、静かに首を振った。
言葉がなくても、想いは届いていたのだろう。
恵はほんの一瞬だけ目を閉じると服の裾に指をかけ、ゆっくりとみみの身体を露わにしていった。
空気が肌に触れ冷たくもあり、同時にどこか甘く感じる。