第5章 微熱の帰路
恵「オマエ……誰に、触られた?」
その声には嫉妬が混じっていた。
怒りとも戸惑いともつかない、淡いけれど確かな――
“独占欲”。
「どうして、そんなこと……。」
恵「見たんだよ。夏油先生の表情も、オマエの顔も。……俺が見たことない顔してた。」
彼はぐっとみみの肩を掴み、言葉を選びながら続けた。
恵「何があったかなんて……全部聞きたいわけじゃない。けど、わかる。オマエが、夏油先生に……違う、誰かに、奪われそうになったってことは。」
みみの喉がかすかに鳴る。
恵の視線は真っすぐだった。
怯えもためらいもあるのに、その奥に潜んでいるのは――
明確な欲望だった。
恵「……嫌だった。」
彼はそう言いながら、みみの手をそっと握る。
熱い。
普段は決して見せない熱のこもった目で、みみの手の甲に唇を落とした。
恵「オマエのこと……前から、ちゃんと好きだった。」
その言葉に、胸が詰まる。
悠仁や野薔薇と一緒に笑っていた日常の中で、彼が抱いていた想い。
恵「……だけど、もう我慢したくない。」
彼は言葉と同時にみみの身体をそっとベッドに倒した。
驚くほどゆっくりと、けれど抗えないほどの力で。
「恵……やめ――。」
恵「いやだ。」
その拒絶を、彼は初めて明確に否定した。
恵「オマエが、他の男に触られるのが嫌だ。……たとえ相手が、あの夏油先生でも五条先生でも。……俺は嫌だ。」
声が震えていた。
怒りではない。
切実な、拙くて不器用な愛情だった。