第4章 再会
彼の指先が喉元を這う。
皮膚の温度を的確に読み取るような、獣の感触。
密閉されたビルの空間には天井から垂れ下がる配線の焦げた匂いと金属の酸味、そして――
彼の体温が混じっていた。
甚「……まだ震えてるじゃねぇか。そんなんじゃ現場で死ぬぞ?」
耳元で囁かれた声に、息が詰まる。
壁際に追いつめられたみみは、逃げ場のない空間に完全に捕らわれていた。
伏黒甚爾――
その存在は圧倒的で、暴力のような魅力に満ちている。
長い指がみみの頬に触れ、滑らかに顎を持ち上げる。
無理やり視線を絡めさせられた瞬間、彼の唇がみみの頬骨のあたりを掠めた。
口づけとも噛みつきともつかぬ行為に、思わず目を閉じてしまう。
甚「その反応……忘れられねぇな。やっぱ、オマエ……。」
「やめて、甚爾……今は、任務中で……っ。」
かろうじて吐き出した声は、自分でも情けなくなるほど掠れていた。
胸の奥で鳴っているのは恐怖か、あるいは……
もっと淫靡な衝動なのか、判別がつかない。
甚「そういう顔すんの、反則だろ。」
甚爾はにやりと笑い、片手でみみの腰を引き寄せた。
全身が熱を帯びていく。
息苦しいほど近くで感じる男の体臭と汗と、血の気配――
それが甘く感じる自分を、心のどこかで軽蔑していた。
だが、次の瞬間。
傑「……何してるんだい?」
凍りつくような声が、闇の奥から響いた。
見覚えのあるシルエットが、崩れた壁の向こうに浮かび上がる。
夏油傑だった。
黒い裾がわずかに揺れ、片手には呪霊を封じた玉。
目元だけが異様に冷たい。
微笑んでいるのに、氷のような静けさが周囲の温度を下げていく。
傑「任務中に……再会を祝ってた?」
そう言って傑が1歩近づくと、甚爾がゆっくりと手を離した。
だが、腰からはその手が離れていない。