第4章 再会
恵「オマエの身体が、誰のものでも良い。誰と寝ようが、誰に抱かれようが、俺には関係ない。……でもな。」
恵の声が低く沈む。
恵「……オマエが“誰に”心を許してるのか、それだけは――気になる。」
「恵……。」
恵「宿儺には逆らえなかった?夏油先生には優しくされた? ――で? 本当は、誰に触れてほしかったんだよ。」
答えられなかった。
恵の問いに、どの名前も選べず、ただ俯いた。
すると恵はふっと視線を落とし、目を閉じる。
そして、かすかに首を振った。
恵「……もう良い。俺が口を出すことじゃない。俺は、オマエの保護者でも、恋人でもないし。」
「違う……ちがうの、恵……っ。」
恵「……俺は、誰にも負けるつもりなかった。宿儺にも、夏油先生にも。でも――オマエは、俺を見てなかった。」
その声には悲しみと、哀れなほどの真剣さがにじんでいた。
恵は女の頬に手を伸ばしそうになり――
そして、そのまま指先を空に残して静かに背を向けた。
恵「もう……どうでも良い。」
そう言い残し足早に歩き去っていく後ろ姿に、女は何も言えず立ち尽くすしかなかった。
かすかに残る傑の指の痕と悟の熱と、宿儺の名残。
そのどれよりも今、胸を締めつけたのは――
恵の声だった。
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夕方の薄曇りが部屋のカーテン越しに差し込み、微かな青白さを部屋中に漂わせていた。
散らかり気味のベッドの上、毛布にくるまったまま女はスマホすら手に取る気力もなく、ただ天井を見上げていた。
溜まった疲労と気だるさ。
最近は呪霊退治ばかりで、まともに眠った記憶もない。
「もう全部どうでも良いや……。」
ぽつりとつぶやいたその瞬間、玄関の開く音と、やたら元気な足音が近づいてくる。
野「アンタ、まーた引きこもってるでしょ。」
バン、とドアが強引に開け放たれ現れたのは釘崎野薔薇。
いつものようにスタイルの良いワンピースに軽いメイク、ハンドバッグを肩にかけ、まるで雑誌の中から抜け出したような姿で立っていた。
「……休みの日くらい、静かにしてたいんだけど。」
野「静かにしてたら死ぬタイプでしょアンタ。ほら、顔色も悪い。化粧する気も起きないくらい疲れてるなら、私が連れ出すわよ。」