第4章 再会
「……っ、傑……っ……もう……。」
恥辱と焦燥に満ちた顔を見せたくなくて、女は傑から顔を背けた。
すると、声が近づいてくる。
悠「先に教室行ってるからなー!」
野「先生、あとで黒板に授業内容書いてもらうんだからね!サボんなよー!」
悠仁と野薔薇の姿が中庭を通り過ぎ、傑にひらひらと手を振って去っていった。
そのとき、もうひとつ足音が近づいてくる。
ふと見上げると、そこにいたのは――
伏黒恵だった。
彼は無言のまま、女と傑を見比べる。
そして数秒後、冷静な声で切り出した。
恵「……何をしてた。」
その問いは、驚くほど淡々としていた。
だが、その声音の奥には確かに怒気があった。
冷たい水のように静かな怒りが、ぴしりと空気を裂いていた。
「な、何も……別に、してない。話してただけ、傑と……宿儺の件のことで。」
必死に言い繕う女に、恵は1歩、近づいてくる。
その鋭い瞳が、女のシャツの襟元に向けられた。
整えたつもりだったそれは、やはりわずかに乱れていた。
襟元には、まだうっすらと紅潮した肌の名残がある。
恵「……ボタン、かけ間違ってる。」
「え……っ。」
恵「……それに、首、赤い。」
言われて初めて気づいたように、女は自分の襟をぎゅっと握る。
逃げるように視線を逸らした。
恵「前は宿儺。その次は……夏油先生か?」
「っ……恵、それは……。」
恵「本気なのか? それとも、ただ……誰にでも、なびいてるだけか。」
その言葉は刃のように鋭く、冷たく胸に突き刺さった。
「……私は……そんなつもりじゃ……。」
恵「そう見えない。」
恵はゆっくりと女に歩み寄り、距離を詰める。
たった半歩、目の前に立たれた瞬間、女は息を詰めた。
恵の顔が近い。
けれどその瞳には、怒りと失望が静かに沈殿している。