第2章 葛藤
悠「伏黒たちと離れたってことは、分断されたんだな……たぶん、呪霊の能力だ。」
「……そんなに強いの?」
悠「いや、術式ってより……みみに反応してる気がする。」
「え?」
そのときだった。
冷たい笑い声が、林の奥から響いた。
呪「……やっぱり、面白いなぁ。おまえ。」
その声は、男とも女ともつかない中性的な響きをしていた。
濡れた髪を垂らした異様に手足の長い呪霊が、木の陰からすうっと現れた。
その目は爛々と光っており、異常な執着でみみを見つめている。
呪「この匂い……甘い、甘すぎる。人間の女なのに、まるで呪胎みたいだ。欲望の塊。……ああ、面白い。舐めてみても、良いか?」
その瞬間、みみの背筋が凍りついた。
(この呪霊……私を、獲物じゃなくて……。)
——“玩具”として見ている。
悠「やめろ!」
悠仁が飛び出す。
だが呪霊は素早く空間をねじ曲げ、彼の進路を遮った。
呪「黙ってな、器くん。おまえは後でね。……まずは、こっちの嬢ちゃんから。」
ねちり、と黒く伸びた舌が空間越しにみみの頬へ触れた。
ぞわりと悪寒が走り、彼女は1歩後ずさる。
「……いや……来ないで。」
呪「怖がる顔……最高だなぁ。痛がって、泣いて、でも感じちゃって。おまえみたいな人間、大好きだ。」
(動けない……。)
足がすくんだ。
術式もなければ呪力による防御もできない。
ただその“魅了”の性質が、かえって呪霊の異常な興奮を誘ってしまっていた。
悠「やめろって言ってんだろぉぉお!!」
悠仁の咆哮が森に響いた。
次の瞬間、彼は呪霊の背後へ回り込み渾身の拳を叩き込んだ。