第17章 彼女が消えた
甚「なんで……っ、庇って……。」
「だって……甚爾に……当たる……と思って……。」
女は笑っていた。
微かに、苦しげに、けれど穏やかに。
「好きになった人が……目の前で死ぬの……やだったから……。」
甚「ふざけんな……!」
甚爾の声が震える。
普段のような荒さはもうなかった。
ただ、ひたすらに――
崩れていた。
甚「なんで……なんでオマエが……!」
悟と傑が銃声の方へ目を向ける。
そこには、血を流しながらも立ち上がった博士の息子がいた。
片腕は垂れ下がり、顔の半分は打ち砕かれていた。
それでも銃を手にしてなお、呪いのような目で甚爾を睨んでいた。
子「奪った……俺の実験を……お前が、全部……ッ!」
悟が結界を破って彼の方へ飛び出す。
傑もまた、呪霊を展開して周囲の逃走経路を封じた。
悟「もう喋らなくて良いよ、アンタ。」
冷たい声が辺りに響いた瞬間、轟音と共に彼の体は吹き飛ばされた。
だが――
そんなことはもう、甚爾にとってはどうでもよかった。
甚「しっかりしろ……! まだ……医術班が……。」
甚爾が震える手で胸を押さえる。
だが血は止まらない。
女はもう、息をするのもやっとで――
「ねえ……甚爾……最後に……もう1度……キス、して……?」
途切れそうな声に彼はただ黙って顔を近づけ震える唇で彼女の唇に、そっと口づけた。
「……ありが、と……だいすき……。」
女の目が、ゆっくりと閉じた。
そのまま動かなくなった身体を甚爾は強く、強く抱きしめる。
甚「おい……起きろ……!」
何度呼んでも、返事はない。
甚「おい……ッ! ふざけんなよ……!」
声が枯れる。
叫ぶほどに、彼女のぬくもりが静かに失われていく。
傍で立ち尽くす悟の目にも、涙が滲んでいた。
傑が静かに目を閉じ、呪霊たちを引き戻していく。
――夜は静まり返った。
奪い返したはずの命は、たった1発の銃弾に奪われた。
甚爾の腕の中には2度と微笑まない、愛した女の亡骸だけが残されていた。