第17章 彼女が消えた
悟「もしくは、術式で記録自体が存在しないことになっているか。いずれにせよ、強制的な連れ去りで間違いない。」
悟の顔はいつになく真剣だった。
野薔薇は彼の冷たい目を見て、ようやく自分がただごとではない事態に巻き込まれたのだと再認識する。
悟「場所は?」
野「豊島区。あの辺は結界の歪みが最近多かった場所だわ。みみが反応を察知してたのかも」
悟「……恵にはまだ言うな。変に動かれても面倒だ。僕と傑で先に動く。」
五条は立ち上がりながら、虚式“茈”を放つ直前のような緊張感を纏っていた。
傑「悟、本気で殺気出てるけど。」
悟「当たり前だろ。」
視線はまっすぐ野薔薇を貫いた。
悟「僕の可愛い生徒が、誘拐されたって? ふざけんなって話だよ。」
その声は、笑っていた時とはまるで違う。
世界の理すら嘲笑うようなあの余裕も、今は一切見せていなかった。
悟「野薔薇、オマエはここに残って。恵と硝子にも事情は話さず、様子を見ておいて。僕たちが動いてる間、誰が次に狙われるか分からないから。」
野「……了解。」
唇を噛みながらうなずいたその瞬間――
夏油傑がふっと目を伏せてから、静かに言葉を落とした。
傑「“博士”の残党かもな。」
悟「……。」
一瞬の沈黙のあと、五条は鼻で笑った。
悟「だとしたら、面白くなってきた。死んだはずの奴の亡霊に手を出されたなら、潰しておかないとな。」
傑「悟。」
悟「……悪い。つい本音が出た。」
五条は目元に軽く手を当て、頭を振った。
悟「みみを連れ戻す。それだけだ。」
彼の瞳は、まっすぐに焦点を結んでいた。
“無下限呪術”の絶対的な強さと共に――
“守る者”としての決意が宿っていた。