第17章 彼女が消えた
高専の廊下を、野薔薇は苛立った足取りで駆けていた。
さっきまで一緒に買い物していたはずのみみが、気づけば人混みの中から忽然と姿を消した。
探しても呼びかけてもスマホも通じず、まるで最初から存在していなかったかのような静けさだった。
野(違う、みみはそんな軽率なやつじゃない。無断でいなくなるわけないし、ふざけるような性格でもない。)
走る途中、袖口をぎゅっと握りしめる。
怒りと焦燥と、自分に対する苛立ち――
“一緒にいたのに、守れなかった”という罪悪感が胸を突き刺していた。
――扉の奥から、声がした。
悟「で? 結局そっちの任務の結界はどうだったの、傑。」
傑「うーん。術式の起動条件は特殊だったけど、まぁどうにかなったよ。悟が騒がしかっただけで。」
悟「おいおい、いつもみたいに僕のせいにすんなよ〜。実際、僕がいなきゃ時間掛かっただろ?」
軽口を叩く五条悟の声が、扉越しに響く。
その瞬間、野薔薇は扉を乱暴に開け放った。
野「みみが――消えたの。」
静まり返る空気。
笑っていた悟の表情が一瞬で冷える。
夏油傑も椅子から背を伸ばし、目を細めた。
傑「詳しく話してくれる?」
野薔薇は肩で息をしながら、息を整える間も惜しんで説明を始めた。
野「カフェにみみと一緒に行った。最初は普通だったし、妙な気配もなかった。けど、帰ろうと歩いてたら居なくなってた、5分以内に連絡が取れなくなった。スマホも応答なし。近くを探し回ったけど……影も形もない。」
悟「監視カメラは?」
野「確認した。だけど、不自然にみみが映ってる部分だけ、全部ノイズになってる。」
傑「……それは、消されたな。」
夏油傑が低い声で言い、指先を組みながら顎を引いた。