第17章 彼女が消えた
甚「……あぁ。好きだよ。」
その声は低くて、不器用で、けれど真っ直ぐだった。
まるで、ずっと胸の奥にしまっていた言葉を、ようやく外に出したように。
甚「自分でも、いつからかわかんねぇ。でも……オマエが他の男に震えてるの見たとき、頭ん中、真っ白になった。」
女の胸がぎゅっと締めつけられる。
それは、たしかに“恋”という名の衝動だった。
甚「ずっと、守ってやりたかった。誰にも触らせたくねぇって思ってた。……けど、オマエが俺のもんになってくれるなんて、思ってなかった。」
「……私、ずっと甚爾に触れてもらいたかったよ。」
女の目から、ふいに涙がこぼれる。
「一緒にいると、怖いもの全部、消えてく。今日だって、甚爾が来てくれなかったら……私、もう……。」
言葉が詰まる。
喉の奥が震える。
甚爾は何も言わず、女の体をきゅっと抱き寄せた。
腕の力が強くて、壊してしまいそうなくらい。
それでも――
甚「俺がいる。これからもずっと。」
その一言が、すべてを包み込んだ。
女は嗚咽まじりに、彼の胸に顔をうずめる。
震える体を、彼は抱きしめ続ける。
――長い時間をかけて、ようやく交わった2つの心。
そのまましばらく何も言わず、ただ肌を寄せ合っていた。
気がつけば、甚爾がぽつりとつぶやく。
甚「なあ……オマエさ、次どこ行きてぇ? こんなとこじゃなくてさ。……まともな布団のある場所。」
「えっ……。」
甚「ホテルでも、俺の部屋でも、どこでも良い。今は……オマエと一緒に、まともな朝迎えてぇ。」
女は少し笑って、涙を拭った。
「……甚爾の部屋、行ってみたいな。」
その言葉に、彼はほんの少し照れたように目をそらし
甚「じゃあ行くか。」
とぶっきらぼうに呟いた。
だが、その背中には確かな決意があった。
守りたいと願う女と、ようやく心を通わせた今――
伏黒甚爾は、2度と手放さないと誓っていた。