第17章 彼女が消えた
果てた後の静寂は、妙に心地よかった。
伏黒甚爾の胸に顔を押し当て、女はそっと目を閉じた。
男の鼓動がドク、ドク、と規則正しく響いている。
少し前までの激しさとは打って変わって、その音はやけに穏やかだった。
甚「……動けねぇだろ、今は。」
甚爾がぽつりと呟き、シーツ代わりの白衣を肩にかけてやる。
冷たい実験室の空気が、熱く火照った肌にそっと触れた。
「ありがと……。」
女が小さくそう呟くと、甚爾は黙って彼女の頭を撫でた。
その手は大きくて、ぶっきらぼうなのに優しかった。
しばらく沈黙が続いた。
心地よい静寂。
けれど、女の中には小さな疑問が浮かんでいた。
「ねえ、甚爾……。」
甚「ん?」
「さっき……“好きだろ”って聞いたよね。……あれ、本当は、甚爾がそうだからなんじゃない?」
甚爾の手が、ふと止まった。
女の問いはまっすぐだった。
曖昧な答えではごまかせない。
彼はしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐くように呟いた。