第16章 交差する衝動
女の肌に、冷たい器具が這った。
子「これで中枢神経の反応を……いや、先にこっちだな。生体反応のピークを記録したい。」
博士の息子は顔を紅潮させながら、実験台の端に備えられた小さな金属ケースを開ける。
中には幾つかの注射器と、粘性のある液体が入ったガラス瓶。
男の指が滑るようにガラスを掴み、手慣れた動きで注射器に薬液を吸い上げた。
女は足首を拘束され、上半身も固定されて動けない。
服はすでに乱れて、肩も胸もあらわだった。
視線をそらしたくても、首すらも抑えられている。
男は薬液を注射しようと近づき、その目がぞくりと歪んだ欲に濁る。
子「苦しくないよ……これから、気持ちよくなってもらわないといけないからね。データのためだ。そう、ただの実験なんだ。」
だがその言葉に、女は体を震わせる。
明らかにそれは、“実験”などではなかった。
ただの、支配と倒錯の快楽に塗れた暴力。
「やめ……っ……。」
かすれた声は空間に吸い込まれ、男の耳には届かない。
あるいは、無視していた。
子「抵抗するなって……ああ……綺麗だな、君のその目。怖がる顔……ほんと、興奮する。」
女の喉が鳴り、歯を食いしばる。
だが、次の瞬間。
――ガシャァン!
分厚い鉄製のドアが、まるで紙のように吹き飛ばされた。
実験室の空気が一変する。
男が驚いて振り返った時、そこには1人の男の影が立っていた。
子「……ッ! お前は……!」
低く、腹の底から響くような足音。
白衣の裾を風が巻き上げ、黒い上着の男がゆっくりと現れる。
伏黒甚爾。
その目は氷のように冷たく、だが怒りに燃える炎が奥に蠢いていた。
甚「女に手ェ出してんじゃねぇよ、ガキが。」
その瞬間、空気が爆ぜた。
甚爾が動いたと思った時にはすでに博士の息子の顔が真横に吹き飛んでいた。
拳1つ、容赦もなく叩き込まれた殴打。
男の体が床を滑り、器材を巻き込んで止まる。
子「……っ、だ、誰が……てめ……。」
うわ言のように呻く声を無視し、甚爾は真っ直ぐに女の元へ歩み寄った。
拘束具に手をかけると、一気に引きちぎる。