第16章 交差する衝動
椅子を彼女の正面に引き、座る。
その距離はわずか数十センチ。
そして、まるで医師が患者を診るように彼女の顔をまっすぐに覗き込む。
子「まずは精神反応から見よう。今の心拍数は……上昇中。瞳孔の開き具合も予想通り。ここにいるだけで、“生存欲求”が働いている。美しいね。」
端末を置き古びた本を開くと、中には手書きでびっしりと綴られた“記録”があった。
父親のものだ。
そこには“異世界人への接触実験”や、“呪霊との交配仮説”など目を覆いたくなるような計画が詳細に記されていた。
子「これは父の夢であり、俺の目的でもある。君を完全に理解すること。それが俺の“生まれた意味”だ。」
そして彼の手が、彼女の頬にそっと触れた。
(やめて……。)
触れ方は優しかった。
けれど、その奥にあるものが恐ろしく冷たかった。
子「怖がらないで良い。俺は痛みを与えたいわけじゃない。“反応”を観たいだけだから。精神がどの段階で抵抗し、どこで折れるのか。君の中の“人間らしさ”が、どこまで耐えるのか――。」
彼の指先が首筋に触れた瞬間、みみの背筋に戦慄が走る。
心拍数が跳ね上がるのを、男は冷静に観察していた。
子「恐怖の中でこそ、真実が現れる。君の“この世界への存在理由”も、きっとそこにあるはずだよ。」