第15章 呪いに染まる
子「来たね。」
彼は声のトーンを低く変え、彼女のすぐ近くへと歩み寄った。
子「この状態で話しかけると、君の“奥”が反応しやすい。心を読んでいるわけじゃない。君自身が“見せたいもの”が、俺の前に現れるだけさ。」
みみの呼吸は浅く熱を帯び、意識がじわじわと曖昧になっていく。
だが――
その深層で、彼女の中に何かが動いた。
(……こんな……ところで、負けない。)
過去の記憶が、走馬灯のように駆け巡る。
五条悟の瞳、伏黒恵の手、野薔薇の笑顔、硝子の声。
彼女がこの世界で得たものたちが、まるで背中を支えるように響いてくる。
「……ふざけないで……。」
弱々しい呟きだった。
しかし、博士の息子は一瞬だけ、目を細めた。
子「ほう……意識を保ってる? この濃度で? なるほど、“核”は感情にあるんだな。なら――もっと刺激を与えよう。」
彼はチューブの濃度をさらに上げようと手を伸ばした。
その瞬間――
バンッ!!
爆音のような衝撃が部屋の外から響いた。
警報が鳴り、赤いランプが点滅する。
彼女の視界が揺れた。
その音は、どこかで聞き覚えがある――
(甚爾……?)
「くそ……早すぎる。」
博士の息子が苛立ちに顔をしかめ端末を手に走り去ろうとした瞬間、みみの中で何かが“爆ぜた”。
呪力でも術式でもない。
もっと原始的な、生への渇望と、怒りの炎。
拘束ベッドがキィ、と軋む。
その震えが、やがて彼女の指先に伝わっていく。
(――出なきゃ。今ここで終わらせたら、本当に“ただの実験体”にされる。)
彼女の中に眠るものが、いま静かに目覚めようとしていた。