第15章 呪いに染まる
白く閉ざされた空間の空気が、ひときわ重く揺れた。
無機質だった扉が、まるで息を吐くように“カチリ”と音を立てて開く。
中に入ってきたのは、例の男――
博士の息子。
白衣の下に黒いシャツを着込み片手には端末、もう一方には古びた本のようなものを抱えている。
子「ようやく会えたね、みみ。」
その声音は、冷静さの中に薄ら笑いを含んでいた。
足音を刻みながら、ゆっくりと彼女の前まで歩み寄ってくる。
みみはベッドの端に座ったまま動けない。
身体は自由なはずなのに、異様な重圧が全身にのしかかっていた。
子「君は自分がどれほど特別か、自覚がないようだ。魂の波動、呪力の性質、そしてこの世界に順応した精神構造……“異世界”から来たという事実だけでは説明できないことが、君には多すぎる。」
端末を操作しながら、彼は何枚かのデータを映し出す。
彼女がこれまでに接触してきた呪術師、呪霊、戦闘の記録……
すべてが記録されていた。
子「父はこの空間を“観察と再現”の場に選んだ。そして俺は、“解き明かす者”として生きる。君の精神の限界が、肉体の適応とどうリンクするのか……試してみたくてね。」
彼の指先が壁の端末をなぞると部屋の照明がわずかに落ち、薄暗い赤い光に包まれる。
子「これは恐怖ではない。学問だ。恐れなくて良い。君の“反応”すべてが、俺にとっては最高の価値だ。」