第15章 呪いに染まる
甚「こんな人の多いとこで、ぼーっとして。はぐれたか?」
彼女は頷こうとするが身体が勝手に1歩、後ずさった。
それを見て、甚爾は面倒くさそうにため息をつく。
甚「……見つけた俺が悪いって顔してんな。こっち来いよ。」
「え、でも、野薔薇が……。」
甚「後で探してやるよ。今は、俺と一緒にいろ。」
それは命令とも、誘いともつかない声だった。
けれど、否応なしに抗えない熱を孕んでいた。
(……だめだ。近づいちゃいけないって、わかってるのに。)
それでも彼の手が伸びてくると、本能が先に動いてしまう。
その手に触れた瞬間、指先から全身に電気が走るような感覚。
何度でも思い出してしまう、あの夜の名残。
甚爾は人混みを避けるように彼女の肩を抱き、人気のない裏路地へと足を向けた。
足音が小さく響く細い路地の中、彼の吐息がすぐ耳元で感じられるほど近い。
甚「……元気そうじゃん。ま、あん時よりは顔色良いな。」
「……あのとき?」
問う声に、甚爾の口元がゆるく笑みに歪む。
甚「ホテル。忘れたか? ……まあ、忘れられるわけねぇか。」
「……っ。」
顔が一気に熱くなる。
あの夜、無理やりなのにどこか優しくて彼の奥底にある孤独に触れたような気がして……。
忘れるはずがなかった。
「……あれって、ただの気まぐれだったんだよね?」
小さく絞り出した言葉に甚爾は立ち止まり、ふと彼女を見下ろした。
薄暗い路地で、その瞳は獣のように光っていた。