第15章 呪いに染まる
硝子の背中は、どこか達観していて――
それでも、彼女の迷いにそっと寄り添ってくれる大人の温度があった。
(私が、どうしたいのか……誰を選ぶのか……。)
医務室を出るころには、外の陽射しが眩しいほど強くなっていた。
でも胸の中に灯る感情の熱は、それ以上だった。
そしてその視線の先には――
また、あの2人の姿が浮かんでしまうのだった。
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──どこ行っちゃったの、野薔薇。
繁華街の雑踏は人で溢れ視界を遮る看板や店舗の照明、交錯する声が彼女の思考をかき乱していた。
カフェを出て少し歩いただけのはずなのに、野薔薇の姿はすっかり見失ってしまっている。
スマホを取り出してメッセージを確認する。
だが、既読はつかない。
着信も鳴らない。
(こんなに人が多いから、どこかで電波が悪くなってるのかな……。)
焦りと不安を胸に、辺りをぐるりと見回す。
昼下がりの陽射しが少し陰り、人々の流れに妙なざわつきが混じり始めていた。
そんなときだった。
すっと、ひとつの影が人混みから浮かび上がるように現れた。
大柄で、黒いTシャツに無造作に羽織ったジャケット。
通り過ぎる誰もが一瞬だけ視線を向けては、すぐに逸らす。
威圧感。
獣のような空気。
そして、その鋭い眼差しが、こちらを射抜いた。
甚「──おい、オマエ。」
鼓動が跳ね上がった。
声の主は、伏黒甚爾。
彼女の脳裏に、一瞬であの夜の記憶がよみがえる。
強引に抱き寄せられた腕の感触。
熱く、荒々しく、それでもどこか優しかった唇。
その全てが、今この瞬間の空気に上書きされていく。
「……甚爾……?」
驚きに声が震えた。
それを見て、甚爾の口元がわずかに歪んだ。