第15章 呪いに染まる
そう言いながら硝子は手元のタブレットで何かを確認し、軽く画面を見せてくる。
そこには彼女の呪力パターンの推移が表示されていて、確かに今は安定していた。
「……じゃあ、本当に呪霊の影響はなくなってる、ってことですよね?」
硝「ええ、体としてはね。でも――。」
硝子はタバコの火を灰皿に落とし、少しだけ身を乗り出すようにして続けた。
硝「……心までは、測れない。」
その言葉が静かに、しかし確かに彼女の胸に突き刺さった。
硝子の視線は穏やかで、それでもどこか哀しみを含んでいるようにも見える。
硝「ねえ、みみ。そのとき、誰といたの?」
「……っ。」
唐突な質問に、思わず目を逸らしてしまう。
視界の端で、硝子の唇がかすかに笑ったのが見えた。
「どうして……わかるんですか。」
震える声で問えば、硝子はくすっと笑って煙を吐いた。
硝「女の子の身体は、正直よ。検査すれば、どんな刺激を受けたか、だいたい見えてくるもの。」
その言葉に、顔から一気に熱が昇った。
何もかもを知られてしまっている気がして、息が苦しい。
だが、それ以上に――
(じゃあ……あのとき私が感じたことも……全部、本物だったってこと……?)
誰かに強いられたわけじゃない。
自分で望んで、受け入れて、あの熱に溺れた――
それを、いまさら他人のせいにできるわけもない。
「……呪霊の影響じゃなくて、私の……本心、だったんでしょうか。」
震える声でそう漏らすと硝子はタバコを消し、ゆっくりと立ち上がった。
硝「自分のことは、自分でしか答えを出せないわよ。でも……その心の震え方を見てるとね――あなた、たぶん、本気で誰かに触れられたんじゃない?」
柔らかな声だった。
意外なほど、優しい響きだった。
「……わかんないんです、まだ。」
硝「それで良いじゃない。迷って、苦しんで、その上で選べば良いのよ。誰を、どんなふうに想うのか。」
硝子は彼女の頭をぽん、と軽く撫でるように触れてから窓の方へと視線をやった。