第2章 葛藤
悟「無事だった?どこにも怪我ない?……遅かったかと思って心臓止まるかと思った。僕と傑、君がいなくなってからずっと探してたんだよ。」
悟が言う。
みみの胸が、じわじわと焼けるように苦しくなった。
悟「君、まるで記憶を失ってるみたいな顔してる。もしかして……覚えてないの?僕らのこと。」
傑が首をかしげる。
その表情は、何も疑っていない。
“昔からの関係”が当然であるかのように、彼は振る舞っていた。
そう。
この世界では彼女は“最初から存在していた”。
高専1年生、みみ。
呪霊は見えるが、術式は使えない“特異体質”。
……だが、誰も知らない。
“記憶”だけが、別の世界の断片を持っていた。
彼女だけが、この世界が“本来の呪術廻戦”とは違うことを知っている。
五条悟が封印されていない。
夏油傑は敵ではなく、教員として存在している。
そして——
伏黒甚爾は、死んでいない。
すべてが、“おかしい”のに皆がそれを“当たり前”だと信じていた。
「……あの、私って……本当に、この世界に最初から……?」
悟「なに言ってんのさ。どんだけ一緒にいると思ってるの?」
悟が軽く笑いながら頭を撫でる。
その手が、驚くほど自然で——
逆に怖かった。
悟「君は小さい頃から特別だった。呪霊に触れられるくせに、何の術式も発現してない。でも……。」
「でも?」
傑が代わりに言葉を継ぐ。
傑「“魅了”するんだ、無意識に。君が視線を向けるだけで、相手の呪力が撹乱される。時には、攻撃の手を止めさせるほどに。」
「……そんな力……私、知らな……。」
悟「いや。君自身が理解してなかっただけだよ。術式じゃない、“呪力質”の変異だ。天然の精神干渉。まるで——君という存在そのものが“惹きつける呪い”で出来てるみたいなんだ。」
その言葉に、みみはぞくりとした。
思い返せば甚爾の異様な執着も、あまりにも“出来すぎていた”。