第13章 籠の中の鳥
悟「……駄目って、言えるわけないでしょ、そんな顔されて。」
ふっと笑みを作りながらも、その目は真剣だった。
恵は1歩、彼女に近づいた。
恵「じゃあ……俺たちがそばにいれば、オマエの身体、少しは楽になるのか。」
「……うん。怖いの。……自分でも、何をどうしたら良いかわかんなくて……。」
次の瞬間、悟が恵の肩をぽんと叩いた。
悟「よし、じゃあ……付き合ってあげよっか。ふたりで。」
恵は驚いたように悟を見たが、その表情にはすぐに諦めと決意が混じった。
みみは、そんなふたりを見て、ぽつりとつぶやいた。
「ありがとう……ふたりとも。」
その言葉が引き金になったように、悟と恵はゆっくりと戻ってきた。
みみを中心に3人の距離が静かに、しかし確実に縮まっていく。
熱はまだ、収まってはいない。
彼女の指先が震えながら、悟の手をとる。
もう片方では、恵の裾を掴んだ。
ふたりの手が、彼女の肩に添えられる。
逃げないようにでも、支えるようにでもなく――
受け止めるために。
このとき確かに、彼女は1人ではなかった。
ただ身体の疼きに抗うだけでなく、ふたりの間に生まれる静かな熱に身をゆだねていた。
扉の向こうではなく、今この部屋に――
彼女が欲していた温もりが、在った。
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悟が部屋の奥へと消え、ドアが静かに閉まる音が響いた。
その瞬間、空気が変わった。
閉じ込められたような沈黙。
外からの光は遮られ、部屋にはぼんやりとした間接照明だけが灯っている。
まるで、日常から切り離された密室。
みみはベッドの端に座ったまま動けずにいた。
心臓が高鳴る。
理由はわかっている。
視線の先には伏黒恵――
彼もまた、何かを堪えるように無言で立ち尽くしていた。
恵「……五条先生、行ったな。」
低く抑えた声が空気を震わせる。
みみは頷くこともできず、ただ目を見返した。
まるで何かの均衡が壊れるのを、互いに待っているようだった。
恵「……オマエ、平気なのかよ。」
問いかけ。
けれど、それは答えを求めているというより自分を落ち着かせるための言葉のように思えた。
みみは震える指を胸元に添える。
自分の鼓動が早鐘のように打っているのを感じる。