第13章 籠の中の鳥
ただ、まっすぐなまなざし。
その瞬間、五条が冷たいタオルを手に戻ってきた。
悟「恵、……語りすぎ。僕の役目、取らないでくれる?」
恵「別に。事実を言っただけです。」
2人の間にふわりとした空気が流れ、彼女の緊張が少しだけほぐれた。
五条は優しく額にタオルを当て指で汗をぬぐいながら、ぽつりと言った。
悟「……もう、何があっても……僕の目の届くところにいて。良いね?」
「……うん。」
その言葉は、部屋に小さく響き、夜の空気に溶けていった。
部屋の空気がようやく落ち着いたように見えたその瞬間、悟が立ち上がった。
悟「……とりあえず、少し外の空気でも吸ってくるよ。恵も、1度出たほうが良い。」
その声はどこか張り詰めたものだった。
理性を保とうとする冷静さの裏に、感情の波が揺れているのがわかる。
恵もそれに従って立ち上がり、無言のままドアへ向かう。
けれど彼らが扉に手をかけた、その刹那だった。
「……行かないで。」
掠れるような、けれど確かに強く響いた声が部屋の重たい空気を裂いた。
悟が振り返ると、みみがベッドの縁に腰を下ろしたまま小さく震えていた。
額には薄く汗が滲み、頬は赤く火照っている。
けれど、それはただの発熱ではない。
彼女の目が潤みながらも、まっすぐにふたりを見据えていた。
「……まだ、治まらないの。ひとりに、しないで……お願い。」
その声には明確な羞恥と、それを上回る必死さが滲んでいた。
呪霊の術式によって引き起こされた身体の疼きが、理性をかき乱し続けているのだ。
呼吸をするたびに彼女の胸が上下し、その姿がいやでも視界に入ってしまう。
恵が息を呑んだ。
恵「……オマエ、まだ……。」
「……平気なふり、してた。悟にも恵にも、もう迷惑かけたくなくて。でも……このままふたりが出てったら、私、たぶん――壊れちゃう……。」
悟はぎり、と歯を噛み締めた。
悟(くそ……これじゃ、我慢した意味がなくなるだろ。)
けれど、みみの目が彼の動きを縫いとめていた。
いつものおどけた笑顔では誤魔化せない。
その瞳には確かな欲求と不安と、何よりも――
ふたりへの信頼が宿っていた。
「……まだ、甘えても良い?」
その問いかけに、空気が静かに震えた。
悟の喉が、ごくりと鳴る。