第13章 籠の中の鳥
部屋に戻るまでの道は短いはずなのに、彼女にとっては永遠のように長く感じられた。
五条の体温が近い。
その温もりに触れているだけで、疼きが少し和らぐ──
でも、それと同時に奥底でくすぶっていた感覚が、またじわじわと広がっていく。
それに、恵の視線。
彼は何も言わない。
だが、歩調を合わせながら何度も横目で彼女を見ていた。
それが余計に恥ずかしかった。
“自分が見られている”という意識が、また身体を熱くさせる。
悟「ここだ。」
五条がドアノブを回し、静かに扉を開ける。
そのまま彼女を中に運び、ベッドの端にそっと座らせた。
「……ありがとう……。」
掠れた声でそう言うと、恵が静かにドアを閉めた。
彼も中に入ってきたのだ。
2人の男に囲まれているこの状況が、また身体をざわつかせた。
恵「着替えとか……タオル、ある?」
「ある。そこ……引き出しの中に。」
恵が動き、棚を開けタオルを取り出す。
その間、五条は女の額に手を当てた。
悟「熱、まだ下がってないな。……オマエ、ほんとデリケートなんだから。」
苦笑交じりに言いながら指先はそっと額から頬へ、そして首筋に触れた。
その一瞬の感触に、彼女は肩をびくっと震わせた。
「触れられると……また、なるから……。」
悟「……ごめん。でも、冷やさないと。」
五条は静かにタオルを受け取り、水を入れに洗面台へと向かった。
その間、部屋に残されたのは彼女と伏黒恵だけだった。
恵「……平気か。」
恵の声がした。
ふと視線を向けると、彼は壁にもたれながらじっとこちらを見ていた。
恵「俺、あの呪霊と対峙してた時……アイツの術式、分かった気がした。欲望を煽って、抗えなくする。相手の“理性”を喰らう術式──。」
「……うん……。」
恵「でも、みみ……最後まで、壊れてなかった。」
その言葉に、彼女の目が見開いた。
恵は、静かに続けた。
恵「見てた。助けに行った時……苦しそうだったけど、目だけは、諦めてなかった。……だから、今も。」
彼の目には決して軽蔑も、哀れみもなかった。