第13章 籠の中の鳥
悟「おい──ッ!!」
五条が駆け寄り、その身体を抱きとめた。
体温に触れた瞬間、彼女はびくんと大きく震え喉の奥から甘い声が漏れた。
「や……あ……触れられると……もっと、苦しく、なるの……。」
悟「……術式の後遺症、か。」
五条の声が低く、沈む。
悟「こんな状態で、部屋を出たら──オマエ、どうなってたと思う?」
彼の言葉が厳しく響く一方で、その腕はとても優しくて彼女の背をしっかりと支えていた。
悟「連れて帰る。僕の部屋に。」
「……え……?」
悟「もう1人で眠らせるわけにはいかない。」
五条の表情は真剣だった。
何かを決意したような、強い意志が宿っていた。
悟「僕が責任、取るから。だから、安心して──もう、こんな顔しなくて良い。」
彼女は何も言えなかった。
ただその言葉に、すがるように身を預けた。
それだけで、ほんの少し疼きが和らいだ気がした。
恵「──おい、……大丈夫か?」
声がして、足音が近づく。
冷静で静かな、けれど、どこか焦ったような声。
伏黒恵だった。
廊下の角から現れた彼は女の姿を見た途端、一瞬だけ目を見開き表情を強張らせた。
寝巻きの前が微かに乱れ頬は紅潮し、五条の腕に抱きかかえられている彼女の姿。
悟「……恵、こんな時間に何して……。」
五条の声音には明らかに苛立ちが混じっていた。
誰にも見られたくなかった──
いや、見せたくなかった。
今、彼女がどんな状態にあるか五条には痛いほどわかっていたから。
恵「術式の影響が残ってるのか。」
恵は低く呟いた。
目を伏せ、けれど確かに彼女の体を見ていた。
汗ばんだ肌。
震える脚。
そして、男の腕に身を預ける様子。
彼女は何も言えなかった。
ただ息が熱く鼓動が喉元で脈打ち、顔が焼けるように熱い。
悟「連れて帰るとこ。……部屋、戻るだけだよ。」
恵「俺も行きます。」
悟「は?」
恵「俺も見届けます。……心配だから。」
淡々としたその言葉に、五条の眉がぴくりと動いた。
彼女を包む腕に、ほんの少しだけ力がこもる。
けれど、恵の表情は真剣だった。
それ以上言葉を交わすことなく、3人はそのまま廊下を歩き始めた。