第13章 籠の中の鳥
このままでは、理性が保てない。
理屈ではわかっている。
これは呪霊の術式の名残だ、と。
けれど──
感覚だけは、そうじゃなかった。
“欲しい”その言葉が、喉の奥で脈を打つ。
気がつけば、彼女は立ち上がっていた。
扉の前まで歩み寄り、手をかけている。
「……ダメ……やめ、なきゃ……。」
でも、足は止まらなかった。
部屋の外に“誰か”の気配が欲しくて──
何かに触れて、この苦しさから逃れたくて。
ギィ、と静かにドアが開く。
夜の高専の廊下は、ひんやりとしていて、それだけで少し熱が引く気がした。
裸足のまま歩き出す。
風が肌を撫でるたび、微かにゾクッとする感覚が全身を駆け巡った。
寝巻きの前をしっかり締めても、胸元に残る感触は消えない。
「……はぁ……っ……。」
呼吸が速い。
目元が熱い。
脚の奥がじんじんと疼いて、そこから汁が滲んでしまっているのが自分でもわかった。
「誰か……。」
声にすがるような響きが混じる。
廊下の奥に誰かいないかと、期待している自分がいる。
──五条悟なら。
──虎杖悠仁でも。
──誰でも、いい。
“触れてくれたら、今この苦しみから解放されるかもしれない”そんな破滅的な想いすら、今は心の中で渦巻いていた。
ふと、角を曲がった先──
自動販売機の前。
そこに、白髪の男が立っていた。
五条悟。
片手に缶ジュースを持ち、涼しげに振り返ったその瞬間──
彼の表情が、凍りついた。
悟「……オマエ……っ、なにしてんの。」
低い声。
いつもの冗談めいた調子は一切ない。
サングラスの奥の瞳が、真っ直ぐに彼女の全身を見つめている。
「……さと、る……。」
掠れた声が漏れる。
その瞬間、何かが限界を超えた。
女の身体が、ぐらりと崩れ落ちるように膝をついた。
呼吸が荒く全身が汗で濡れていて、寝巻きの裾が滑り落ちる。
露わになった太腿から、つっと透明な液が流れた。