第12章 甘い呪縛
悟「無理に動かないで。硝子が“最低2日は安静に”ってさ。特に──身体に無理な反応が出る可能性があるって。」
「……さとる、…………?」
声を出そうとすると、喉がからからに乾いていた。
悟はすぐにテーブルからペットボトルを取ると、ストローを差して差し出してくれる。
悟「ほら、ゆっくりね。」
それを口に含みながら、彼女はようやく“生きている”という実感を取り戻しつつあった。
その一方で──
悟の声には柔らかい響きと、どこか押し殺したような静けさが混ざっている。
悟「……熱はない。脈も、まあ大丈夫そう。けど……。」
悟の手が、彼女の額にふれた。
優しい手つきだった。
でも、それ以上に震えるような微細な感情がその指先に宿っていた。
悟「どうして、僕が“いなかった時”に……こんなこと、になっちゃうんだろうね。」
ぽつりと呟かれた言葉が、胸を締め付けた。
責めるでもなく怒るでもなく、ただ彼自身が自分を責めているような、そんな声音。
女は、息を詰める。
「……ごめ、なさい……。」
悟「謝らないでよ。」
即座に遮られる。
五条の声が、珍しく強かった。
悟「悪いのはオマエじゃない。……何があったか、聞いても良い?」
沈黙が落ちた。
布団の下で、彼女の手が無意識に拳を握りしめる。
「……帳が降りて……他のみんなと分断されて……。私、ひとりになって、それで……。」
言葉が喉で詰まる。
舌が回らず、記憶が喉に絡みついたように言葉にならない。
五条はそれを無理に急かさなかった。
ただ静かに、じっとその続きを待っていた。
「……人の姿をした呪霊、が……術式で、身体を動かせなくして……。」
悟「……っ。」
五条の顔から、一瞬音が消えた。
眼鏡の奥、蒼の瞳が細くなり、指先がぴくりと震える。
「その状態で……。」
彼女は唇を噛む。
言わなければ、と思う。
でも言葉にしてしまえば、悟が自分以上に傷つくことがわかっていた。
悟「……“された”のか?」
沈黙。
ただ、それが“イエス”の答えだと悟には伝わっていた。
ベッド脇の椅子が、軋む音を立てた。
悟は拳を膝に当て、歯を食いしばっていた。
「……宿儺が現れて……倒してくれた。野薔薇と恵も、来てくれて……助けてくれたの。だから、私は……無事だよ……。」