第12章 甘い呪縛
数秒の静寂。
そして──
悠「っ……ぅ、あ……!」
女の胸の中で、抱き上げていた身体が僅かに震えた。
悠「えっ……あ……? ここ、どこ……?」
次に彼女が目を開けたとき宿儺の鋭い瞳はもう消えていて、代わりに優しく戸惑った光がそこにあった。
悠「……お、俺…………? えっ、なにこれ、え? なんで俺、抱いてんの……!? てか、裸!? え!? えええ!?!?!?!?」
少女の身体を抱えたまま、虎杖悠仁の顔がみるみる真っ赤になっていく。
状況を理解しようと必死に目を泳がせるが、記憶は当然“飛んで”いる。
悠「ま、待って、ちょっと、説明を──って、釘崎!? 伏黒!? なんで!? 俺なんかした!?」
恵「……宿儺になってた。帳、ぶち壊して乱入。みみ、救出。そのまま抱えて呪霊を真っ二つ。」
伏黒が淡々と説明するが、その眉間には深い皺が刻まれている。
恵「そのあとも“俺の女”とか言って離さなくて……マジで、色々きついから。」
野「虎杖……アンタ、ほんと……最低じゃないけど……最低よ……!!」
野薔薇が唇を噛み、目元を赤くしながら背を向けた。
虎杖は困惑しつつも、腕の中の女の様子に気づく。
ぼろぼろに乱れた衣服。
うるんだ瞳。
熱い吐息。
悠「……俺……宿儺……なに、したんだ……。」
「助けてくれたんだよ。」
女がぽつりと呟いた。
「……怖かった。ずっと、体が動かなくて。でも……宿儺が来て、助けてくれた……。」
その声は安堵に滲み、ほんの少し切なさが混ざっていた。
それを聞いた虎杖の表情は罪悪感に染まりながらも、そっと彼女の額に手を伸ばす。
悠「……ごめん。本当に、ごめん。俺の中に、あいつがいるせいで……。」
彼女は首を横に振った。
「あなたじゃない。あなたは……優しいままだった。」
その一言に、虎杖は深くうなだれた。
心をえぐられるような安心と、痛み。
──俺の中には、俺じゃない“何か”がいる。
それでも、誰かのそばにいて良いのか。