第12章 甘い呪縛
その場にいた誰もが、思考を凍りつかせた。
宿「“俺の女”に、ずいぶんと下劣な真似をしたな。……死にたいのか?」
呪霊が反射的に距離を取ろうとしたその瞬間、空間が切り裂かれるように“斬撃”が走った。
──ギィィィィィン!!
斬られたのは術式でも肉体でもない。
“存在”そのもの。
呪霊の左腕が、血を噴いて吹き飛んだ。
呪「が……っ……貴様ッ!!」
宿「黙れ。オマエに言葉を返す価値すらない。」
宿儺の声は冷たく、低い。
その背後から、ようやく姿を現したのは怒りに目を燃やす野薔薇と青ざめた顔の恵だった。
野「おい……ふざけんなよ……っ!」
野薔薇の視線が、女の姿に向けられる。
呪霊の下で衣服を乱され全身を汗と愛液に濡らし、意識が朦朧としたまま倒れている姿。
その瞬間、彼女の感情が爆ぜた。
野「……クソが……ッ! 何してくれてんだよ!!」
呪霊へ向けて、芻霊呪法が飛ぶ。
釘が音を立てて飛び散り、呪霊の肩を撃ち抜いた。
恵「釘崎、下がれ。コイツは俺が殺す。」
恵が冷静に言ったが、その指先は震えていた。
女の姿が、脳裏から離れない。
傷ついたわけではない。
──だが、それ以上に、何かを“奪われた”と直感した。
恵「……オマエの術式、どれだけのもんか知らねえけど……。」
宿儺がゆっくりと指を鳴らす。
周囲の空気が一瞬で変わり、場にいる全員の肌に“死”が突きつけられる。
宿「貴様のような下衆が──俺のに手を出した報い、骨の髄まで味あわせてやろう。」
呪霊が術式を再構成しようとした瞬間、宿儺はすでに目の前にいた。
そして、にやりと笑ったまま、言った。
宿「“解”──。」
一閃。
空間が裂け、呪霊の上半身が血飛沫と共に弾けた。
肉の断面から黒い呪力が吹き出し、断末魔すら出せずに崩れ落ちる。
「……っ、あ……あれ……?」
女が朦朧とした意識の中、目を開けると、そこにいたのは
──宿儺だった。
鋭い眼差しで自分を見下ろし、その胸の中に抱かれていた。