第2章 過去を抱き締める
「……私が一番抱かれたい人は、すでに誰かのものでした。」
言わない、言えるはずなんてない。
姉の恋人に好きなんて言えるはずもない。
ただの色恋が原因かと呆れるだろうか。
それでも彼には"ただの"なんて言って欲しくなかった。
初めて人を好きになり、この人の為なら死んでもいいとさえ思えた。
誰かを好きになって結婚して子供が生まれて、その子供を残して死にたくないと思っていた。
私のように次の子供たちにはそんな思いはさせたくないと、怪獣を根絶やしにすると決めた。
でも、現実を見せつけられてはどうしようもなかった。
私にこの国を守れる程の力はない、未来の子供たちを幸せにする力なんてない。
それでも、この人の子供が欲しいと思い、この人やその子供の為なら、私の命なんて簡単に投げ出せる。
子供を残して死にたくないと思いながら、その子の為なら死ねるのだ、この人がいるから。
この人は死なない。
こんなことなら、鳴海隊長の告白を断らなければよかった。
あの人なら私との子供が欲しいなんて思いはないだろうから。
ただ欲を発散させたかっただけだろうから。
保科副隊長はただそうかとだけ言って私を抱き締めた。
欲しい、この人が欲しい…。
彼は一度も"ただの"とか"そんなことで"なんて言わなかった。