第8章 知りつつも
約2週間で退院出来てまだ万全とはいかないが、訓練も再開した。
「神谷さん、ちょっといいですか?」
声をかけられ振り返ると日比野と四ノ宮がいた。
どうやら慰労会を開くらしく、市川古橋の復帰祝いも兼ねてのようだ。
「神谷さんも非番ですよね?是非来てくれませんか?」
「え…新人の慰労会でしょ?」
副隊長や小此木も行くらしく、行きましょうと食い下がってくる。
正直私は飲み会が好きじゃないし、あまり行きたくないのだが…。
「行こうや。ええの?僕飲むで?」
何故来るのだ…あなたが来ては断れなくなってしまうじゃないか。
持っていたスマホを取られ、行くと言うまで返さないとポケットにしまわれてしまった。
取ってええでと言うので普通にポケットに手を入れようとするとあかん!えっち!と言われる。
「副隊長が悪いんじゃないですか…。」
「僕から取り返せたら来なくてもええで。取り返せたら、な?」
なんなの…そんなの無理に決まってる。
この人から取り返すなんて出来るわけない。
「いっ!そこはあかんよ!?」
「すみません、わざとじゃないんです。」
ポケットの中のスマホを掴もうとしたら、副隊長が動いたせいで別のところを掴んでしまった。
えっち!すけべ!と繰り返すのであなたが悪いのだろうと冷めた目線を送る。
「君らも手伝いや、来て欲しいんやろ?」
2人は子供みたいなことをする私たちを引いた目で見て、無理には…と呟く。
「早く返さないとまた握りますよ。」
「やからやめてって!握るんやなくて、撫でて!?」
2人の前でどんな会話してるんだと笑ってしまった。
1人は未成年だと言うのに…。
「やーっと笑うた。ほんまに可愛ええ。そうやって、笑っててや。」
優しく微笑む彼の顔を見て、私も自然に笑えていた。
失礼しますと日比野と四ノ宮はいなくなり、未だにスマホを返してくれないので2人で執務室に戻る。
隙を見て取ろうとしても毎回躱されてしまった。
返してくれそうもないのでそのまま業務を再開する。
結局返されないまま勤務時間が終わってしまった。