第6章 別の人
ご飯を食べて私の家につくと、すぐに後ろから抱きつかれて首の匂いを嗅がれる。
トレーニングの後そのままだからあまり嗅がれるのは嫌だ…。
「好きだよ。もし君があいつのとこに戻りたいと言うなら離してやる。だが、少しでもわだかまりがあるなら、まだボクといてくれ。」
うんと頷きながら顔を上げ振り向くと唇が重なり、離れるとお互いに擦り寄った。
少しの間、弦の体温を感じ、お風呂を沸かしに行く。
弦のことは好きだ、でもあの人と同じ好きかと言われると、そんなわけがなかった。
お風呂に入りテレビを見ながらゆっくりしていると、そろそろ寝ようと服の中に手を滑り込ませお腹を撫でられた。
頷くとベッドまで来てキスをする。
ゴム…持ってないけどいいか。
生でしたことがないわけじゃないし。
舌を絡ませて糸を引きながらゆっくり離れていく。
彼の目は熱を宿していた。
ポケットをゴソゴソとし出して、取り出したものを目の前に翳す。
「安心しろ、生ではしない。」
個包装の避妊具をヘッドボードに置き、また唇を重ねた。
キスをしたままお腹を撫でて服を捲りながら胸まで辿り着くと、下着をズラし突起を親指で弾く。
鼻にかかった声を漏らしながら身体が跳ねた。
散々口内を弄び離れた唇は愛の言葉を紡ぐ。
「本当に可愛いな。好き過ぎてずっと閉じ込めておきたい。オカッパのとこに戻したくないなぁ…。」
どうしてそんなに私を想ってくれるんだろう、私が同じだけのものを返せないとわかっているはずなのに…。
今までの男たちみたいに気持ちの篭っていない"好き"は言いたくない。
この人には嘘をつきたくないんだ。
「一緒にいても幸せになれない人のとこには戻りたくない。少なくとも今はそう思ってる。」
儚く微笑んだ彼が違うだろと呟いた。
「本当に好きなやつといるのが一番幸せだ。ボクのことは都合良く使えばいい。」
どうしてそこまで……この人のことを好きになれたら、どれだけ幸せだろう。