第6章 別の人
廊下の端で誰もいないことを確認すると、頬に手を添えて顔を近付けてくるので、肩を軽く押す。
眉を下げて薄く開かれた目で見つめてくる。
押さえる手を気にせず近付いてきたので、口元を押さえた。
「付き合っている人がいるので。」
「なんで…なんで少しも待ってくれへんかったの?いつから付き合ってるん?鳴海隊長やんな?」
待つってなに…あなただって別れることに了承したじゃない。
「試験の日の夜です。」
ほんまに待ってくれへんかったんや…と俯き肩を震わせた。
え、泣いて…彼が泣くとは思わず、そっと顔を上げさせると、泣いてはいなかったが今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「別れて…頼むから、別れて……璃沙がほんまに好きなんは誰?鳴海隊長のこと好きちゃうやろ?」
これ以上は彼の言葉を聞いていると絆されてしまうと思い、無視をして執務室に戻った。
業務を終わらせトレーニングをしているとスマホが鳴ったので慌てて出る。
「璃沙、もう終わっただろ?近くの駅いるから会おう?」
はいと返事をして慌てて基地を出て駅に向かった。
弦の姿を見つけて駆け寄ると私の後ろを見て、なんでいると呟く。
どうしたのだろうと思い振り返ると、保科副隊長がいた。
後つけてきてたの?
お疲れ様ですと挨拶をして弦の手を取り、行こうと見上げた。
「取らんでください…僕からその子を取らんでください。」
もう無理なんだよ…あなたと私は一緒にいれない。
私たちは一緒だと幸せになれない。
酔ったら誰とするかわからない彼と、何かあればすぐ他に逃げる私じゃ…。
弦ならその心配はないし、姉と仲良いわけでもない。
こんな私が好きな人と幸せになれるはずなんてないんだ。
「お前のせいか、オカッパ。璃沙をあんな顔にさせたのはお前なんだろう?それを知って、返すわけがない。」
飯を食いに行こうと手を引く彼に大人しくついていった。
どうやら保科副隊長は諦めて帰ったようだ。