第6章 別の人
眠気はなかったが、寝ていなかったし、私を抱き締める腕が温かくて、あの後すぐ眠ってしまった。
目を開けると弧を描く瞳と目が合う。
「おはよう、璃沙。いきなり抱いてすまなかった、身体は大丈夫か?」
「ん、大丈夫。」
その胸に抱きついて温もりを感じる。
「好きだ。戻って来ないか?本当は異動させたくなかった、だけどああするしかなかったんだ。」
何度も謝りながら擦り寄ってくる。
この人の告白を断ったからじゃないのだろうか。
どうやら、当時の小隊長たちから解放戦力が一行に伸びないと、第1部隊ではダメだと通告があったらしい。
それと、私の貞操観念が低いことをどこからか知り、置いておけないと言われて、亜白隊長になら任せられると第3に異動させたようだ。
「だが、君は昨日、今にも死にそうな顔でボクの前に現れた。別に何があったかは聞き出さない、ボクを求めてくれるなら全力で君を愛そう。」
同じ分の気持ちを私は返せない、だけど1人なのは嫌だった。
「私、好きな人がいます。それでもいいですか?あと、これからも第3にいたいです。」
構わないときつく抱き締めたこの人を好きになりたい。
そしてきっと、これからも第3で訓練を積めば、もっと強くなれる気がする。
優しくキスすると遅刻するぞと言われて慌てて起き上がった。
「別にボクは構わないが…ボクと会っていて遅れたと言えばいい。」
それなら咎められないだろう?とまた抱き締めてくる。
いや、逆に怒られるだろう…第1と第3は仲が悪いじゃないか。
急いでシャワーを浴び連絡先を交換して慌ててホテルを出た。
あの人とした時程の幸福は感じなかったが、私は鳴海隊長といた方が幸せになれるのだろうと思った。
愛するよりも愛される方が気持ち的にも楽で、何も聞かずにただ受け入れてくれる彼がとても温かかったから。