第2章 過去を抱き締める
気がつくとベッドの上にいた。
ここは医療棟の…何故こんなところにいるんだろうと起き上がり、椅子に座って腕組をしながら俯く人物を見つめる。
姉の彼氏、私の好きな人…。
引き付けられるように頬に手を添えて鼻がつきそうな程顔を近付ける。
「なにしとるんや。」
もう少しで唇がつきそうな時にその声は聞こえて、私はそのまま至近距離で彼を見つめた。
息がかかる…その息までも愛しくて全てが欲しくなる。
私はこんなにも彼のことを好きになっていたんだ。
こんな私が彼に触れてはいけないと思いながらも離れることは出来なかった。
汚れた私ごと受け入れて欲しい…そう思う程、恋焦がれているのだと、高鳴った心臓が知らしめてくる。
「さすがに素面で彼女以外とは出来へんて。」
彼の言っていることがわからなかった。
酔っていれば姉以外の女を抱くのかと…。
頬に添えていた手はそのまま離れて、気付けば私はその頬をパァンと音が鳴る程強く打ち付けていた。
「お姉ちゃんを悲しませないでください。」
キスをしようとした私が何を言っているんだと自嘲しながら、彼から離れた。
「意味わからんのやけど。叩くんは僕の方やない…?」
「申し訳ありませんでした。」
副隊長にキスをしようとした、それどころか叩いてしまった、どんな処分になるのだろう。
「キスしようとした罰と叩いた罰で腕立て100回……と言いたいとこやけど、そのまま寝とき。罰はそのうち受けてもらうで。」
あぁ、やってしまった…また異動だろうか、それとも除隊だろうか、どんな処分であろうと受け入れなければならない。
少し赤くなった頬をひと撫でし保科副隊長は帰っていった。