第2章 過去を抱き締める
第3部隊に異動してから半年が過ぎた。
私よりも少し前に第6部隊から異動してきたという、防衛隊としては小柄で銃器もまともに扱えない男が、副隊長への昇格が決まった。
私は知っている、彼が血を吐くような努力をしてきたこと、周りに何を言われようとも刀を置かなかったこと、だからあまり驚きはしなかった。
姉にそんな彼の副隊長昇格祝いの飲み会があるから来ないかと誘われ、あまり乗り気はしなかったが、重い腰を上げ店に向かう。
彼とはたまに事務報告をするくらいの仲だ。
ほとんど話したことはない、私だと認識出来るだろうか。
でもどうせ、みんな飲みたいだけだろうからと、軽く考えて行くことにした。
「神谷、珍しいな。君がこないな場に参加するやなんて…。」
「副隊長昇格、おめでとうございます。」
ありがとうと笑った彼の顔はとても眩しかった。
どんなに頑張っても意味がない私とは正反対だった。
「宗四郎くん、おめでとう!本当にもう、私よりも先に出世しやがって…このこのっ!」
「わっ、ちょ…璃子さん、やめてくださいよ…。」
姉が保科さんの首を小脇に抱えて、拳で頭をぐりぐりしている。
2人は名前で呼び合う程仲良い、付き合っているんじゃないかという噂もよく飛び交っている。
保科さんが離れた後、姉に彼と付き合っているのか聞いてみた。
「あ…つ、付き合ってはないかな…。」
歯切れの悪い言い方に疑問を抱いたが、それ以上聞くのはやめた。
何故だか少し嫌だと思ったから。
飲み会もそろそろお開きになる頃、トイレをしておこうと部屋を出て向かっていると、壁の影に姉の姿を見つけ近寄っていく。
「宗四郎くん、ね、しよ…?」
「ま、待ってください、せめて帰ってから……ん、ちょ…。」
保科さんを壁に押し付けキスをしていた。
何よ、本当は付き合ってるんじゃない。
男女のそういう場面を見たくないとかそういうのではなく、ただただ嫌だった。
だからすぐに目を背けてトイレに向かう。
どうしてこんなに嫌なのだろう。
ただ、先程の彼の笑顔を見て、私の心臓は張り裂けそうだった。
イケメンが目の前で笑ったのが悪い、顔がいいからそういう反応をしてしまっただけだ。
結論が出て、それ以上考えるのはやめた。