第11章 春日山城
「自分の、身体のことは‥自分が一番わかってるから‥大丈夫‥」
誰も死なせたくない、助けなきゃ‥。その一心で歩く。
「‥わかった。俺も行く。ただし、危険だと思ったら直ぐ戻すから」
「ふふっ、佐助くんて見かけに寄らず面倒見良い‥よね。‥ありがとう」
佐助くんに介助してもらいながら歩いていると、廊下の真ん中で大きな男が向かってくる。
「(あの男は‥確か‥)」
「信玄様、どうしたんですか」
佐助くんが男の名を呼んだことで、この男が信玄様か、と理解する。そういえばこの人に腕掴まれてたなと記憶が蘇る。
「やあ、佐助、それに安土の姫。驚いたよ、君の戦場での姿‥男だと思ったら、まさかの可愛い女の子だったなんてね」
「(この男、しれっと口説いてる、?)」
少し警戒しながらも、信玄様を見上げる。
「佐助くんから聞きました。あなたも私の治療を頼んでくれた一人だと。‥ありがとうございます。おかげで今、こうして立ててます」
「‥どういたしまして姫。もう、あんな無茶はするんじゃない。死に行ってるようなもんだ」
「大丈夫ですよ、私はまだ死ねません。だからまだ死ぬことはないです」
きっぱりと、眼を見て言った。これは本心だ。あの日からずっと秘めている私の信念だ。
「‥そういえるのが羨ましい」
「?何かおっしゃいましたか?」
小声で聞き取れなかったから聞き返す。
「いや、何でもない。そういやどこに行くんだ?
「琴葉さんのところです」
私達の目的地を聞いた途端、信玄様の目が変わった。いや、こっちが素の顔なのかもしれない。
「‥美桜、一人聞こう。君は意識を失う寸前こう言ったね、『殺さないで』と。あれは自分を守るためか?それとも友人のためか?」
獰猛な瞳で問われる。逃げる事を許さない、返答次第ではここを通さない、そう言っている。
「‥あの言葉はどちらの意味も含まれています。一つは、友人のためです。助けたいという一心で、二つは自分のためです。命さえあればまた助けに行ける、理由はこれだけです。深い意味はありません」