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あなたに出逢う

第19章 文書



数日前、安土城の広間で信長をはじめとする武将達が軍議を開いていた。

反乱軍自体、織田軍に比べ兵の数は劣るものの誰かが流している武器のせいで鎮圧に思いの外時間がかかっていた。

加えて統率の取れていない寄せ集めの軍。織田への恨み、それだけで集まった兵達なので作戦も殆ど練られておらず、行動が読みづらい。
度重なる小規模な戦に織田軍は疲弊していっていた。

「反乱軍は今のところ収まっていますが、次いつ開戦になるか‥‥それまでに兵達を十分に休ませないと鎮圧は難しいです」

秀吉の報告で広間に重い空気が流れる。

「美桜の身も心配だ。だが、この状況でどうやって奪還しに行く‥‥」

「今は兵を割く事ですら難しい。助けたいのは山々だが‥‥」

広間が沈黙に包まれていると家臣の一人が襖越しに声をかけた。

「信長様にお客様がいらっしゃいました」

「来客の予定はないが‥‥‥通せ」

信長は不審気に入ってきた客を見る。全員が知らない男だ。

「この緊急時に来たという事は、何か重要な話があるのだろう。申せ」

「お忙しい中お時間を頂きありがとうございます。私は橘慎太郎と申します。訳あって帰蝶の商館に潜入していました。これを信長公に渡すよう頼まれました」

慎太郎が差し出した文を信長は読む。読んでいるうちに顔を顰める。

「これは‥‥琴葉、貴様にしか読めなくしてあるそうだ。読んでみろ」

どういう事だろうと思いつつ琴葉は文を見る。そこにはカタカナばかり書かれていた。

「えっと‥‥ワタシハ、ブジデス。アンシンシテクダサイ。ショウカンニイルアイダ、イロイロシラベマシタ。キチョウタチノモクテキハ、オワラナオセンランノヨヲ、モタラスコト‥‥」

文の内容を聞いた全員の顔に衝撃が走る。

「美桜、無事だったのね‥‥よかった」

琴葉はずっと美桜を心配していて、やっと安否確認ができたからか少しだけ顔の強張りが解けた。

「言われてみれば帰蝶の行動は私欲のためのものではなかった。権力、復讐‥‥どれにも当てはまらない理由がそれか‥‥」

納得したような腑に落ちないような何とも言えない感情が込み上がる。

「ふっ、美桜め、考えたな。もし文が誰かの手に落ちた場合の事を考え、信頼できる琴葉にのみ読めるような文字にしたとは‥‥」
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