第19章 文書
急に商館内が騒がしくなった気がする。
太一くんとそよちゃんと一緒に部屋で過ごしていると廊下を走る足音などが聞こえる。
様子を見に行こうと思ったが二人を置いて行く訳には行かないのでそのまま部屋にいた。
「何かあったのかな」
「わからない。でもきっと大丈夫よ。ここは安全」
極力二人を怖がらせないように明るい声で落ち着かせる。
するとドアが急にノックされた。
「?!二人は奥にいて」
こんな時に部屋を訪れて来る人間はいない。帰蝶や元就は絶対にここに来ない。警戒しながらドアの前に行くと聞いた事のある声が聞こえた。
「美桜様、いる?」
「(この声、蘭丸くん、?)」
ドアを開けるとそこには蘭丸が立っていた。
「蘭丸くん!どうしてここに、?」
「美桜様を助けに来たんだ。今、港で織田軍と帰蝶軍が戦っている。今のうちに逃げよう!」」
蘭丸くんが手を掴んで私を外へ連れ出そうとする。
でも私はその場から動かなかった。
「美桜様?どこか痛い?」
「ううん、どこも痛くない。私一人だけが逃げるわけにはいかない。子供達を置いて行くなんてできない‥‥‥あの二人は私の弟と妹みたいなものなの。逃げる時も一緒じゃないと嫌だ。‥‥‥だから、ごめんね」
私は申し訳ないという思いで手を下ろした。
「でも、このままじゃ美桜様、いつか殺されちゃうかもだよ?」
「それはないと思う。ここに来る時、帰蝶に条件を付けたの。『私の身の安全を保証しろ』ってね。意外と守ってくれてるから大丈夫」
「(流石美桜様だなあ。先に手を打ってあるなんて)」
「わかった。そろそろ、警備が俺の侵入に気付いてもおかしくない頃だから、行くね。美桜様、ちゃんと無事でいてよ!約束だからね」
「うん。ありがとう、蘭丸くん。そうだ、一つ、頼み事をしても良いかな?」
そう言って私は蘭丸くんの手に紙を持たせた。
「これは‥‥?」
「黒幕は義昭で、何を企んでいるのかをまとめたの。無茶を承知で言う。これを信長様に渡して欲しい」
蘭丸くんはもう織田軍を離れた身。最悪の場合、投獄されるかもしれない。
でも、信長様達なら、そんな事をしないと思う。
「‥‥‥わかった。恩人の美桜様からの頼みだもん、断らなるはずないでしょ!ちゃんと届けてくるから‥‥!」