第19章 文書
暫くの沈黙の後、顕如は「行ってこい」と言った。
「きちんとここに帰ってくる事、それが条件だ。美桜を頼むぞ」
「はい‥‥!」
蘭丸は早速支度をして早朝に出立した。顕如から仲間を連れて行った方が良いのでは、と提案されたが、単身の方が潜り込みやすいと蘭丸は言い切り、単独で美桜の救出作戦に行った。
「(武器は十分ある。美桜様、無事でいて‥‥!」
数日後、蘭丸は帰蝶の商館近くでどこから入ろうか考えていた。
「やっぱり、変装して紛れた方が良いのかなー」
幾つか方法はある。近くの窓から侵入して美桜を探す、変装して帰蝶の部下として商館内に入る、商人のふりをして客として中に入る‥‥‥どれも危険なのは変わりない。
蘭丸は首を捻って考えていると、港の方が騒がしくなった。
見ると、大きい船が何隻もいた。お互い攻撃しあっているのか‥‥
「何で大型船同士で戦って‥‥あの旗印は織田?!信長様達が帰蝶を襲撃しに来たんだ!でも‥‥」
陸を背に戦っている帰蝶軍の方が圧倒的に優勢だ。堺の街を人質にされているせいで織田軍は思うように攻撃できない。
「行くなら、今しかない‥‥!」
兵を海上戦で割かれている今なら商館の警部も多少は手薄になっているはず。そう考えた蘭丸は二階の窓から侵入した。
急襲だったのか、商館内は慌ただしい。
「どこだ、どこに美桜様はいるんだ‥‥」
部屋が沢山あるせいで片っ端から探すのは時間がかかり、敵に見つかるのも時間の問題。
蘭丸は自分が帰蝶ならどこに美桜を隠すか考え、廊下を歩いた。
「(きっとここにいる。俺が帰蝶なら奥の方の部屋に隠す)」
ある部屋の前に止まり、扉を叩いた。
「美桜様、いる?」