第19章 文書
安土から離れた森で顕如と蘭丸、一向宗の門徒達はひっそりと暮らしていた。
勿論、安土城砲撃の件の事は知っている。誰が首謀者か、その調査の為に顕如は仲間を数人偵察に行かせ、帰りを待っていた。
「顕如様、偵察に行っていた仲間が帰ってきました」
蘭丸の後ろに続いて帰還してきたばかりの偵察隊は余程急ぎの報せを持ってきたのか、息が上がっている。
「偵察ご苦労だった。茶でも飲みながら話を聞こう」
「いえっ、それより大変な報せです。安土城砲撃の首謀者は帰蝶と元就でしたが、その背後には‥‥‥足利義昭がいる事がわかりました」
「信長への恨みを晴らしに舞い戻ったというのか‥‥」
「あいつらの目的までは掴めませんでした。ですが、義昭が関わっている以上、もっと何か良からぬ事が起きそうです‥‥現に、堺の商館では大量の武器が仕入れられていました。どれも性能の良い高価なものばかりです」
隣に座っていたもう一人の偵察隊の男が言いにくそうにしながら報告を付け加えた。
「それと‥‥帰蝶の商館の人員を調べた結果、子供が二人、女が一人いる事がわかりました‥‥」
「名は分かるのか?」
「子供の名は太一とそよ。義昭に無理やり連れてこられたそうです。女の名は‥‥
美桜です」
お茶を用意しながら聞いていた蘭丸は驚きのあまり湯呑みを落としてしまった。顕如の顔の傷が深くなる。
「美桜だと‥‥?何故あの女子が帰蝶のところに?」
「先の織田と反乱軍の戦の最中に帰蝶に連れ去られたようです」
「美桜様が‥‥‥」
顕如と蘭丸にとって美桜は命の恩人だ。蘭丸は迷う事なく顕如に直談判した。
「顕如様、お願いです。俺を堺に行かせて下さい。美桜様を、助けに行きます‥‥!」
「危険過ぎる!商館内の警備は厳重だ。我々でも偵察中、目視で確認できたのは一回だけだ。命を捨てる機か?!」
仲間に止められても蘭丸は迷いのない目をしていた。
「美桜様に助けられたこの命、無駄にする気はさらさらないよ。ちゃんと生き延びる。‥‥美桜様には何度も救われてきた。その恩を返したい‥‥お願いします。俺を、行かせて下さい!」
額が畳に着くくらいに蘭丸は深く頭を下げる。