第18章 善と悪
二人の子供と部屋に返された私は、お茶を出しながら名前を聞いた。
「君達の名前を教えてくれる?」
二人は警戒しているのか、口を開こうとしない。
「‥‥私から名乗るべきだったね。私は美桜。大丈夫、この部屋には怖い人は入って来ない」
「‥‥太一」
「‥‥そよ‥‥」
「太一くんとそよちゃんね。君達はどうしてここにいるの?喋れる範囲で教えてくれないかな」
少しは警戒心を解いてくれたのか、ここに来た経緯を教えてくれた。
「‥‥俺達、ここから少し遠い村に住んでた。でも、義昭が村を急に襲ったんだ‥‥ここの村は場所が良いからって。‥‥‥みんな死んじゃった‥‥‥父ちゃんも母ちゃんも‥‥‥」
涙を流しながら言ってくれた。隣でそよちゃんも当時の事を思い出したのか、泣いている。私は二人を思い切り抱きしめた。
「‥‥子どもは全員義昭の下で働かされた。年齢も性別も関係無く、朝から晩まで‥‥残ったのはもう、俺達だけなんだ‥‥‥返せよっ、返せよっ!村も家族も友達も、全部返せ!」
これは太一くんの魂の叫びだ。きっとそよちゃんもこう思っている。
「(こんな小さい子供を下働きにさせて‥‥足利義昭、あいつを許さない‥‥あんな奴が日の本の頂点に立ってはいけない。自分が正しいと思っている。‥‥早く手を打たないと‥‥!)」
「よく頑張ったね。もう怖がらなくて良い、私が守るから」
「‥‥おねえ、ちゃん‥‥」
その晩は三人で一緒に寝た。
二人が悪夢に魘されませんようにと願いながら。
翌朝、朝食中に太一くんとそよちゃんについて色々と知った。
二人は本当の兄妹ではない。同じ村出身だがその村は子供が多く、大人でさえ子供全員に会う事ができない程だ。だが、義昭の下で働いている時、そよちゃんが家臣に殴られそうになった所を太一くんが助けた事から、二人は行動を共にするようになった。(側から見れば本当の兄妹に見える)
太一くんは9歳、そよちゃんは5歳だそうだ。
「美桜お姉ちゃんはどうしてここにいるの?」
聞かれるだろうとは思っていたがこうも純粋な目で見られると弱い。
「私は仲間の命を助けるために、ここに来たんだよ」
「‥‥お姉ちゃんはつよいね」
そよちゃんから尊敬の眼差しを向けられ、少し恥ずかしい。自分はそんな大層な人間ではないのに。でも二人から言われると嬉しかった。
