第18章 善と悪
同時刻、帰蝶と元就と義昭は広間にて話していた。
「義昭様、改めて先日のご無礼をお許しください」
帰蝶と元就は頭を下げる。二人は義昭が怒れば美桜が殺されるのをわかっていた。だから何とか機嫌を損ねない様にしている。
「もう良い。これ以上謝辞を述べるのならお前らの首から切るぞ」
「義昭様の寛大なお心に感謝します」
「じゃあ、本題といこうじゃねーか」
元就が持ってきた地図を広げたことで会議は始まった。
「先々の内乱で織田は疲弊。上杉傘下内で情報操作のおかげか、上杉領内でも小大名同士で争っているのが現状です」
「ほう。この短期間でよくやった。‥‥もうすぐだ、私の世がやってくる!」
「義昭サマの望む世ってのは一体どんなものなんですかね」
元就が半ば興味無さげに尋ねが義昭は気分が良いのか、ベラベラと語る」
「将軍の絶対的な世だ。家畜以下の虫共や私を陥れた武士共は全員、私の命に従ってもらう。死ねと命ぜば死んでもらう。だが、公家達は高貴な血筋だ、存分に遊ばせようぞ」
公家だけの世を創る。義昭の野望に帰蝶と元就は顔を顰めた。
会議が終わり、帰蝶と元就はまだ広間に残っていた。
「まさかお前がお姫さんとの約束を律儀に守るとはなァ」
元就はニヤニヤしながら帰蝶を見る。なにか下心でもあるんじゃないかと探り入れながら。
「約束は約束だ。一度破ってしまった今、守るのは当然の事だ‥‥昨晩の下働きの子供達は、義昭様が村を襲撃した際に奴隷として連れてきたそうだ」
帰蝶は宴の最中に子供が殴られかけたのを思い出したのか、少し憂いた目をするが、それはほんの一瞬だった。
「ハッ。自分の周りだけでも理想としている世を創っている訳か。だが俺達はあいつの理想を全て手伝う訳じゃねえ。頃合いを見計らって離脱する、だろ」
「ああ。先の話で言っていた世は訪れてはならない。機を見て義昭を殺し、戦乱の世を続けさせる」
「派手な祭りになりそうだ」
帰蝶と元就の真の目的も知らない義昭がこれからどうなるのか、結末は神のみ知る。