第18章 善と悪
「ごめんなさい‥‥!」
「この童!何度同じ間違いをする!義昭様の御前だぞ。来い!一から躾直してやる!!」
見ると幼い女の子が食器を落としてしまったのだろう。男に腕を引っ張られ連れて行かれる寸前だ。
「(なっ‥‥!子どもにあんな重い物を持たせる方が悪いでしょう!)」
襖に手をかけた時、女の子の前に誰かが立ち塞がった。
「やめろ!お前ら、偉いからって調子乗んなよ!暴力ばっか振るって‥‥弱い者イジメは楽しいのかよ!」
「チッ。躾直しはお前からしようか!義昭様の御前で見世物にしてやる!」
どんなに勇敢でも、子供は大人の男の力には敵わない。私は怒りの沸点が到達して広間に入った。
「何だ、お前は!」
「美桜‥‥?!」
広間にいる全員が私を見る。帰蝶や元就は私が来る事が想定外だったのか、驚きが顔に出ている。
「全て見ていましたが、その子たちは何も間違った事をしていません‥‥こんな幼い子供達に重い食器を運ばせた挙句、落としたら躾直す。こんな理不尽な事、あまりにも可哀想です。そんなに怒るなら、自分たちで運べば良いじゃないですか。折角あなた達には手足が、立派な筋肉があるのですから‥‥!」
今すぐにでもこいつを殴ってしまいたい衝動を抑える。この場はなるべく穏便に終わらせたい。
「女の癖に私に物申すなあああ!!」
「(やっぱりダメか‥‥)」
男は私目掛けて刀を振り下ろす。
「(遅い。光秀さんの方が百倍速い)」
日々光秀さんに扱かれた今、この男の太刀は遅く見える。
相手の手首を殴り、刀を地に落とし、勢いのまま腹に蹴りを一つ入れた。
「義昭様を守れー!!」
義昭の家臣達は守る様に囲む。私は子供二人を背に庇い、いつ襲い掛かられても対処できるように構える。
すると、私を庇うように帰蝶が目の前に立った。
「ご無礼をお許しください、義昭様。この者達の処遇は私が下します故」
「羽虫が騒いでおったのか。帰蝶、ここに居て良いのは高貴なる血を持つもののみ、下賤な血を入れてはならぬぞ」
義昭の目には私や子供達、そして家臣までもを虫扱いだ。
私は帰蝶の家臣に引き渡され、部屋に戻った。