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あなたに出逢う

第18章 善と悪



帰蝶から絶対に広間には来るなと言われているが私は広間に足を運んだ。

流石に中に入るのは気が引けるし、場を乱す事はしたくない。光秀さんに『物陰からこっそり盗み見る仕方』を以前教わったので実践する事にした。

「(光秀さんには感謝しかないわね‥‥無事に安土に戻ったら何かお礼をしよう‥‥‥)」

ここにきてから何度か脳裏に光秀さんの姿がチラつく。そんなに会えないのが寂しいのか、自分でもよくわからない。意地悪されないから嬉しいはずなのに‥‥光秀さんの意地悪も私の中で日常となったのだろう。

「(‥とりあえず、主賓はどこにいるの?)」

広間を見渡すと上座に高価な着物を着た男が座って酒を注がれているのが見えた。

「(きっとあの男が今回の黒幕。悪そうな顔をしているわね‥‥)」

帰蝶と元就とで何かを話している様だ。聞き耳を立てて聞くが距離があるせいか聞き取りづらい。








「‥‥本日はお越しいただきありがとうございます。義昭様のお陰で我々も士気が上がっております」

「当たり前だ。この私を誰だと思うておる」

「やはり将軍様のお力は今も尚、強大です。このまま戦に勝ち進めば義昭様の時代もそう遠くないかと‥‥」

「追放された将軍サマがまた権力を握ったとなれば、武士や公家も跪くしかない‥‥最高な世じゃねーか」

「お前たちには存分に私の駒として動いてもらうぞ」







「(将軍‥‥、義昭‥‥‥。まさか、室町幕府第十五代将軍 足利義昭?!光秀さんの講義では信長様が追放なさったはず‥‥帰蝶達と手を組んで戻ってきたということね。しかもまた自分が権力を握ろうとしている‥)」


僅かに聞こえたワードだけで目眩がしそうだ。まさか黒幕が足利将軍だったとは‥‥

「(それに、義昭は権力を握って独裁的な国にしようとしている。自分以外はどうでも良いって‥‥こんな奴が頂点に立ってはいけない。どうやって織田軍に伝えるべきか‥‥)」

慎太郎さんはもう行ってしまい伝達手段が途切れた今、なすすべがない。

「(私も忍びとかだったら、こんなの朝飯前だったに違いない‥‥)」

頭の中で悩んでいると、広間からバリーンと食器が割れる音が聞こえた。
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