第2章 本能寺
「んー?知らない土地に来て、さっそく女の子を引っかけたのか、幸」
「(また人が増えた)」
長身の男性がにこにこしながら、林の奥から歩み寄って来た。
「勘弁してくださいよ、信玄様。こいつら、崖に突っ込もうとしてたんです」
「違います。現実から逃げていたというか、」
ちらりと琴葉の方を見ると、次から次へと出てくる男達に気が滅入ったのかまた無言になっている。こんな無言な琴葉は初めて見たかも。
「本能寺で火の手が上がった夜に、女の子が二人歩きとは‥物の怪の類いかな、にしては美人だが」
「普通の一般人です‥」
色気を帯びた眼差しを向けられ引き気味になっていると、背後から声が響いた。
「よくすらすらと軽薄な口説き文句が出るものだな、信玄」
「ただの本音だよ、謙信」
「(『謙信』に『信玄』?!まさか、この人たちも、)
息を呑んだ時また一人、男が来た。
「ねえ、そこの君達、もっと近くに来て。うん、よく見える。綺麗だね‥着物」
「(ああ、着物のことか。びっくりした‥)」
綺麗な人だなとおもうながら見ていると、足音もせず一人の忍び装束を来た男が木から降りてきた。
「謙信様、信玄様、本能寺の火は消し止められたようです。」
「(この人、忍者?)」
「偵察ご苦労だった、佐助。信長は‥生き延びたようだな」
「(この人たちは一体‥それに、空気がさっきよりも鋭くなっている。もしかして、敵‥‥?)」
考えていると忍者であろうメガネの男と目が合った。
「‥君は‥!」
「(あれ、あの人、本能寺跡地にいた白衣を着た人に似てる‥)」
色々あって忘れていたが、確かにあそこにいた人だ。
「あの、何か、?」
「偶然行き合った女達だが‥知り合いか?」
「いえ、何でもありません‥迷子のようですし、近くの里まで送ります」
「佐助、抜け駆けするつもりかー?」
「茶化してないで、信玄様達は先に町へお戻りください」
短く告げた後、忍者は私達の手を引いて歩き出す。
「(聞くなら今だ‥!)」
「君は本能寺跡地にいた大学生の人ですか?」
「?!ああ、そうだ。覚えてくれているのなら話が早い。まあ正確には大学院生だが」